● ○○ 第108回あすか倶楽部 定例会 ●○○

日時:2009年2月21日(土)14:00〜
テーマ:「割賦販売法および特定商取引法の改正について」
講 師:日野自動車梶@総務部法務室長(前 トヨタ自動車竃@務部東京グループ長) 鈴木山人氏

場所:トヨタ自動車(株)池袋ビル7階702会議室



トヨタ自動車鰍ナ長年法務の業務に従事され、割賦販売法、特定商取引法対応の業務経験が豊富で、今回の法改正に係る審議会もフォローされている19期の鈴木さんより、企業側からの苦労話や裏話を含めて今回の割賦販売法および特定商取引法の改正について伺いました。

1. 現行の割賦販売法および特定商取引法の概略と変遷について
今回の法改正の趣旨と改正のポイントを理解するために、現行の法律についての復習と確認。
・割賦販売法、特定商取引法ともに規制の対象はポジティブリストであり、リストが一部異なる。
・割賦販売法、特定商取引法ともに行政法であり、クーリング・オフなどを除き、違反行為等に関しては行政措置がなされるだけである。特に特定商取引法については業者の登録制ではないので、行政措置の実効性は小さい。

2.今回の法改正の趣旨と改正のポイント
(経済産業省HP http://www.no-trouble.jp/houkaisei/tokusyo.htm参照)
 今回の法改正には、(1)悪徳業者の排除と(2)多重債務の防止の2つの観点が共存している。
・ポジティブリスト制からネガティブリスト制(原則全業種に適用)に変更し(割賦販売法と特定商取引法のネガティブリストは同一に)、規制の抜け穴を解消する。
・現行法に加えて、2ヶ月以上の1回払い、2回払いも割賦販売法の規制対象になるが、自社割賦販売は今回の規制追加の対象外。
・訪問販売業者に当該契約を締結しない旨の意思を示した消費者に対しては、(当該)契約の勧誘をすることを禁止。契約禁止期間などの詳細についてはガイドラインが作成される?
・訪問販売によって通常必要とされる量を著しく超える商品等の契約の解除が、契約後1年間可能。ただし、量だけで質・金額は考慮されないので、例えば著しく高額の商品を1つだけ購入した場合などについては、契約の解除は消費者基本法などに基づく民事訴訟によることになる。
・現行法では対象外であった個別クレジットを行う業者も登録制の対象とし、貸金業者などの不適切な参入の排除を行う。ただし、自社割賦販売は今回の規制追加の対象外となるため、販売業者が自身で個別クレジットを設定する場合は規制対象外。
・個別クレジット業者による加盟店(販売業者)の調査等の義務付け。
・訪問販売等による契約が虚偽説明等により取り消される場合や、過量販売で解除される場合、個別クレジット契約も解約し、既払い金の返還も可能になる。
・クレジット業者に消費者の支払い能力調査を義務づけるとともに、支払い能力を超える与信を禁止。

3.今回の改正の問題となりうる点
(1)(販売)業者の立場から
・ごく一部の例外を除き、全ての商品・役務を扱う取引が規制対象となるため、これまで対応が必要とされていなかった業種・業者も法改正に伴う対応措置が必要となるが、企業側にはその認識がない場合が多い。
・特定商取引法には「特定顧客」の概念があり、店頭で契約しても訪問販売とみなされる場合がある(キャッチセールスなど)。ただ、通常の販売の中でもDMなどによる来店誘致があるが、この場合の方法いかんでは目的不明時勧誘などのケースとして特定商取引法の対象となる可能性がありその判断が難しい。
・割賦販売法、特定商取引法ともに大部分が行政規制法であり、直接民事・刑事罰になる部分は少ないが、真面目な企業ほどコンプライアンスの見地から法遵守の努力をすることになり、そのためのコストアップが予想される。
(2)信販会社の立場から
・クレジット業者による商品・役務内容の把握の範疇が不明確であり、全ての資料を揃えることは不可能であり、いずれにしても大幅なコストアップが予想される。
・個別クレジット業者が、特定商取引による与信契約について消費者に全件確認することは不可能であり、真面目に履行する業者ほど大幅なコストアップとなる。
・厳格な与信限度額の管理が必要となるが、どこまで厳格に行うのか、行うことが可能なのか。入手した個人情報の取扱いなど課題点が多い。
 (3)消費者の立場から
・支払い可能見込み額による与信制限により、分割払いや提携ローンが使えない消費者が増加する。そもそも年収のない消費者はどうすればよいのか。
・逆説的だが、分割払いや提携ローンが使えない消費者は、金利の高い貸金業者を使うことになる可能性がある。
・支払い見込み額の算出方法などにより、グレーゾーンが出てくる危険性がある。

4.質疑応答
今回の法改正の問題点について鈴木さん、参加者から多くの意見が出された。代表的な意見をまとめると以下のとおり。
・真面目な業者ほど余計な苦労が増える。
・コストアップは、結局は消費者に跳ね返り、一般消費者の利益とはならない。
・ローン提携販売、割賦販売のみが規制の対象であり、消費者が第三者から独自に借りるのは規制対象外なので、貸金業者が儲かるだけである。
・刑事罰を課さない限り、悪徳業者は、やり得となる。
・分割払いが本当に必要なところなのにが、改正法で消費者も業者も使えなくなってしまう可能性がある。
・多重債務者を出さないためのコストを、その何十倍もの人が分散して負担することになるが、それは不条理ではないか。

「結局、個人情報保護法と同様に、正直者が割を食うだけで、悪徳業者は少しも困らない。」、「この時期に景気の足を引っ張るだけの政策となる。」との意見が出されたところで、定例会は終了しました。

                                 報告者 24期 福地 清


書籍紹介

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